ウィッグには大きく分けて「医療用ウィッグ」と「ファッションウィッグ(おしゃれ用ウィッグ)」の2種類があります。

見た目は似ていても、つくりや目的はまったく異なります。抗がん剤治療や脱毛症によって地毛が失われた方が日常生活を送るために使うのが医療用ウィッグ、ヘアスタイルのアレンジを楽しむために使うのがファッションウィッグです。

「医療用ウィッグはなぜ高いの?」「ファッションウィッグで代用できる?」という疑問をお持ちの方も多いと思います。この記事では、2つのウィッグの違いを5つのポイントで整理します。

この記事でわかること

  • 医療用ウィッグとファッションウィッグの5つの違い
  • 医療用ウィッグに求められるJIS S 9623の基準と認証マーク「M.Wig」
  • 素材・ベース・価格・スタイリング面での具体的な差
  • 自分の目的に合ったウィッグを選ぶためのポイント

素材:人毛か、人工毛か

医療用ウィッグとファッションウィッグの違いとは?5つの比較ポイントで解説

医療用ウィッグとファッションウィッグのもっとも大きな違いのひとつが、使われている毛材です。

医療用ウィッグは人毛・ミックス毛が中心

医療用ウィッグには、人毛(じんもう=人の髪)や、人毛と人工毛を組み合わせたミックス毛が使われることが多いです。

なかでも品質が高いのがレミーヘアと呼ばれる人毛です。レミーヘアとは、根元から毛先まで毛の向きが一方向に揃っており、キューティクル(毛髪の表面を覆うウロコ状の保護層)がそのまま残っている髪のこと。絡まりにくく、自然なツヤと手触りが長持ちします。一方、一般的な人毛ウィッグに使われる非レミーヘアは、毛の向きが逆毛混じりの状態で集められ、製造工程でキューティクルを削ぎ落としてシリコンコーティングで補う処理が施されています。毛髪本来の保護層が失われているため、レミーヘアと比べて傷みやすい傾向があります。

ファッションウィッグは人工毛が中心

一方、ファッションウィッグの多くはモダクリルやポリエステルなどの人工毛(じんこうもう)を使用しています。人工毛はコストが低く、形状記憶性があるため、スタイルをキープしやすいのが特徴です。ただし、合成繊維特有のテカリが出やすく、屋外の日光下では不自然に見えることがあります。

毛材 自然さ テカリ スタイリング
人毛(レミー) 非常に高い ほぼなし 熱・カラー・パーマ可
ミックス毛 高い 少ない 一部可
人工毛 やや低い あり 熱:耐熱タイプは可/非耐熱タイプは不可。カラー・パーマは不可

ベース設計:頭皮への優しさが根本的に違う

医療用ウィッグとファッションウィッグの違いとは?5つの比較ポイントで解説

医療用ウィッグとファッションウィッグでは、頭に触れる「ベース(内側の生地)」の設計も大きく異なります。

医療用ウィッグ:デリケートな頭皮に配慮した素材

治療中の頭皮は非常に敏感です。抗がん剤治療では地肌がデリケートになるため、医療用ウィッグのベースには以下のような素材が使われます。

  • オーガニックコットン:肌着にも使われる天然素材。吸湿性・通気性に優れる
  • シルク:なめらかで刺激が少ない

加えて、通気性を高めるためにメッシュ構造を取り入れた設計も一般的です。メッシュ部分の素材自体は化学繊維であることが多いため、肌に直接触れる部分に何が使われているかは製品ごとに確認してください。

長時間着用しても快適に過ごせるよう、ベース全体の軽さや伸縮性にも配慮されています。

素材以外にも、長時間の着用を左右する要素があります。

  • 重量:数十グラムの差が、一日の終わりの頭痛や首のこりにつながります
  • アジャスターの位置と数:治療によって頭囲が変動する場合、調整できる範囲が広いほど長く使えます
  • 耳まわりの設計:メガネやマスクを日常的に使う方は、耳の上の当たり方が快適さを左右します

ファッションウィッグ:化学繊維が多くかぶれることも

ファッションウィッグのベースには、化学繊維が使われていることが多いです。健康な地肌であれば問題になりにくいですが、治療で敏感になった地肌には刺激が強く、かぶれやかゆみが生じることがあります。

植毛・つむじ:自然な見た目をつくる手仕事

医療用ウィッグとファッションウィッグの違いとは?5つの比較ポイントで解説

「ウィッグをかぶっていることが周囲に気づかれないか」という不安は多くの方が抱きます。自然な見た目を左右するのが、つむじと植毛の丁寧さです。

医療用ウィッグ:手植えで本物のつむじを再現

医療用ウィッグは、熟練の職人が1本1本丁寧に植毛する手植え(てうえ)で製作されることが多いです。

  • 本物のつむじを再現し、毛流れや立ち上がりまで計算して植毛
  • 分け目を変えることができる
  • 日光の当たる屋外でも不自然に見えにくい

ファッションウィッグ:機械植えが中心

ファッションウィッグは機械植えによる大量生産が一般的です。現在はつむじが作られた製品が主流ですが、分け目の位置が固定されているものも多く、毛流れや根元の立ち上がりの自然さでは医療用に差が出やすい傾向があります。

ただし、これは「医療用は手植え、ファッション用は機械植え」と単純に分かれるものではありません。医療用でも価格帯によって手植えと機械植えを組み合わせるのが一般的で、全体を手植えにするのは上位グレードに限られます。一方のファッションウィッグにも、人工頭皮(スキントップ)を採用して分け目を変えられる製品が増えています。あくまで「医療用に多い/ファッション用に多い」という傾向として捉えてください。

JIS S 9623と認証マーク「M.Wig」:医療用ウィッグの安全基準

医療用ウィッグを選ぶ際に確認しておきたいのが、JIS規格(JIS S 9623)への適合です。

2015年に日本毛髪工業協同組合の主導で制定されたこの規格に適合したウィッグには、「M.Wig(エム・ウィッグ)」という認証マークが付与されます。

M.Wig認定を受けるには、以下の4つの検査をクリアする必要があります。

  1. アレルギーパッチテスト:皮膚への安全性確認
  2. 遊離ホルムアルデヒドの検査:有害物質の含有チェック
  3. 洗濯堅ろう度:繰り返し洗っても品質が保たれるか
  4. 汗堅ろう度:着用中の汗に対する耐性

ファッションウィッグにはこの規格は適用されません。敏感な頭皮での長期着用を考えるなら、M.Wig認定を確認することをおすすめします。

価格・スタイリング:使い方で変わるコスト感

医療用ウィッグとファッションウィッグの違いとは?5つの比較ポイントで解説

価格の違い

種類 価格帯の目安
ファッションウィッグ 5,000円〜20,000円前後
医療用ウィッグ(既製品) 10,000円〜100,000円以上
医療用ウィッグ(オーダーメイド) 100,000円〜500,000円程度(上位品はそれ以上)

医療用ウィッグが高価な主な理由は、手植えによる製造コスト、安全性基準への対応、そして高品質な素材の使用にあります。

なお、医師の診断書・指示がある医療用ウィッグは、医療費控除の対象になる場合があります。購入時の領収書と診断書は保管しておいてください。

価格帯の詳しい解説は「医療用ウィッグは1〜60万円以上?価格帯別の特徴と注意点を5分で把握」をご参照ください。

スタイリングの違い

できること 医療用(人毛) ファッション用(人工毛)
ドライヤー できる 耐熱タイプは通常使用可。非耐熱タイプは低温のみ可または不可。製品仕様を確認
ヘアアイロン・コテ できる 耐熱タイプは使用可。非耐熱タイプは不可。使用前に製品仕様を確認
カラーリング できる できない
パーマ できる できない
水洗い できる できる

医療用ウィッグ(人毛)はドライヤーやヘアアイロンが使えるため、毎日のスタイリングが地毛と同じ感覚でできます。その分、適切なケアが必要になります。

どちらを選べばいい?目的別の判断基準

2つのウィッグの特徴をまとめると、次のような判断軸で選ぶことができます。

医療用ウィッグが向いている方
– 抗がん剤治療・放射線治療中で脱毛が予想される方
– 脱毛症(円形脱毛症・びまん性脱毛症など)の方
– 長時間着用するため、快適さと自然な見た目を重視したい方
– M.Wig認定など安全基準を確認したい方

ファッションウィッグで十分な方
– ヘアスタイルのアレンジを楽しみたい方
– 短時間・特定のシーンのみ着用する方
– コストを抑えたい方

治療中の方が「ファッションウィッグを医療用の代わりに使えるか」という疑問には、「使えないことはないが、頭皮への負担やフィット感の面でリスクがある」というのが率直なところです。

医療用ウィッグを選ぶ際の具体的な軸については「医療用ウィッグを選ぶ前に知っておきたい5つの軸」で詳しく解説しています。

まとめ

医療用ウィッグとファッションウィッグの主な違いを5つのポイントで整理しました。

  1. 素材:医療用は人毛・ミックス毛が中心、ファッション用は人工毛が中心
  2. ベース設計:医療用は頭皮に優しい天然素材・通気性重視、ファッション用は化学繊維が多い
  3. 植毛・つむじ:医療用は手植えで自然なつむじを再現、ファッション用は機械植えが中心
  4. 安全基準:医療用はJIS S 9623適合品に「M.Wig」マークが付与される。ファッション用には適用なし
  5. 価格・スタイリング:医療用は高価だがスタイリングの自由度が高い

どちらのウィッグも、正しく選べば日常生活を支える大切なアイテムになります。まずは自分の目的と使用シーンを明確にしてから選ぶことで、後悔のない選択ができます。

また、素材ごとのケア方法については「人工毛ウィッグと人毛ウィッグの違いとは?」もあわせてご覧ください。